今後の人生設計で選ぶ住宅は持ち家か賃貸かの悩みにお答えします

住宅に関連する永遠のテーマが「持ち家か賃貸か」。生涯コストの観点から、「持ち家のほうが有利」「賃貸のほうが有利」という真逆の見解を多く目にします。様々な意見があり、迷ってしまう方も少なくないでしょう。

ここでは、持ち家・賃貸のそれぞれに想定される生涯コスト、持ち家・賃貸それぞれのメリット・デメリット、住宅選びの判断基準等についてご紹介していきましょう。

持ち家にかかる生涯コスト

まずは、持ち家の購入や維持にかかる生涯コストを考えてみましょう。
昨今では1000万円台から購入できるローコスト戸建て住宅もある一方、1億円以上する高級注文住宅もあります。そのため、生涯コストを標準化することは極めて難しいのですが、ここでは5000万円の住宅を35年ローンで購入して50年間住むと仮定し、想定される生涯コストの概算を算出してみましょう。

  • 頭金:1000万円
  • 購入時の諸費用:250万円
  • 住宅ローン返済総額:5200万円(金利含む)
  • 修繕費:1000万円
  • 固定資産税:620万円

非常にシンプル化した計算ですが、こちらのコストを全て足すと8070万円。ただし、住宅ローンを組んで住宅を購入した場合、住宅ローン控除やすまい給付金の対象となるため、上記から一定のコストを差し引く必要があります。仮に住宅ローン控除とすまい給付金の合計額が420万とすれば、持ち家の生涯コストは7650万円です。

賃貸にかかる生涯コスト

次に、賃貸物件に50年間住み続けた場合の生涯コストを考えてみましょう。
賃貸物件にも比較的リーズナブルなものがある一方、非常に高額なものもあります。また、家族構成の変化によって転居する可能性もあります。
諸々を考慮し、ここでは最初の25年間を家賃15万円の3LDK、後の25年間を家賃12万円の2LDKに住み替えたと仮定し、想定される生涯コストの概算を算出してみましょう。

  • 最初の25年間の家賃:4500万円
  • 後の25年間の家賃:3600万円
  • 入居契約時の諸費用:108万円(家賃4か月分×2回)
  • 契約更新料:324万円(2年契約×25回)

こちらも大変シンプルなシミュレーションになりますが、これらのコストを全て足すと8532万円。賃貸なので、住宅ローン控除やすまい給付金は適用されません。

【結論】持ち家より賃貸のほうがコスト高となる可能性あり

仮に上記でご紹介したシミュレーションが標準的だと仮定した場合には、持ち家よりも賃貸のほうが、住宅にかかる生涯コストは約882万円高くなる、ということになります。

もちろん、持ち家にも賃貸にも様々なタイプがあることから、一概に単純化して比較はできません。住む地域によっても、生涯コストは大きく左右されるでしょう。
持ち家と賃貸の選択にお悩みの方は、上記の結論を1つの参考程度にとらえておいてください。

持ち家のメリット

持ち家に住む主なメリットをご紹介します。

世帯のライフスタイルや好みに合った家を手に入れられる

注文住宅の場合、家族のライフスタイルや好み、価値観、家族構成などに合わせて自由に設計できます。将来、お子様が成長したり世帯人数が増えたりしても、それらの変化に応じてリフォームできることも持ち家のメリットです。

広くて余裕のある空間で生活できる

「庭付きの広い家でペットと一緒に暮らしたい」「憧れだった広いリビングのある家で生活したい」等々、広々した空間で余裕のある生活を実現できるのも持ち家の魅力。賃貸マンションや賃貸戸建ての場合、初めから広さや間取りが決まっているので、イメージしていた余裕のある生活ができないこともあるでしょう。

老後も安心して生活できる

現役を引退して年金生活者になったとしても、持ち家のオーナーは自分なので、すでに住宅ローンを完済していれば、いつまでもその家に住み続けられます。
賃貸の場合、年金生活者の収入状況により契約を断られることもあるようです。

持ち家のデメリット

持ち家に住む主なデメリットをご紹介します。

購入時の初期費用が高額になる

持ち家の場合、購入時の各種費用に加えて、住宅ローンの頭金を用意することがあります。頭金なしで契約できる住宅ローンもありますが、将来的な返済総額を考慮すれば、ある程度の頭金を入れておいたほうが良いでしょう。
一般的に、初期費用が高額となる点は持ち家の大きなデメリットとされています。

各種のランニングコストがかかる

固定資産税、都市計画税、老朽化・故障した設備の交換費用など、賃貸では大家さんが負担すべき各種のランニングコストについて、持ち家の場合には全て家主が負担しなければなりません。

簡単に住み替え・転居ができない

「遠方に転勤を命じられた」「近隣トラブルが絶えない」「家族の介護のため実家へ引っ越すことになった」等々、何らかの理由で住み替え・転居を余儀なくされたとしても、賃貸とは異なり簡単に住み替え・転居ができません。持ち家を売却に出すことは可能ですが、すぐに買い手が見つかるとは限らないでしょう。

賃貸のメリット

賃貸物件に住む主なメリットをご紹介します。

持ち家に比べて初期費用が安い

賃貸物件を契約する際には、敷金や礼金、不動産仲介手数料、家財保険料など各種の初期費用が必要となりますが、持ち家とは異なり、頭金や不動産取得税などの高額な初期費用がかかりません。
初期費用を抑えたい方には、持ち家よりも賃貸がおすすめです。

固定資産税・都市計画税がかからない

賃貸物件にも固定資産税や都市計画税がかかりますが、納税するのは賃貸物件のオーナーです。賃貸契約の入居者は固定資産税等を収める必要がないので、その分、ランニングコストを節約できます。
設備の老朽化等による修理・交換費用も、一般的には入居者でなくオーナーが負担します。

簡単に住み替え・転居ができる

転勤などのやむを得ない事情があれば、フットワーク軽く引っ越せる点も賃貸の魅力。それまでの生活状況を踏まえ、よりライフスタイルや家族構成にマッチした魅力的な賃貸物件を見つけられるかもしれません。

賃貸のデメリット

賃貸物件に住む主なデメリットをご紹介します。

自分の資産として残らない

賃貸物件は、自分の資産ではなくオーナーの資産です。何年も同じ物件に家賃を払って住み続けていたとしても、その物件は自分の資産ではないので、賃貸契約を解消すれば退去しなければなりません。
自分の資産ではない以上、もちろん物件を担保にして融資を受けることもできません。

リフォーム・リノベーションに制限がある

賃貸物件はオーナーの所有物なので、入居者の判断で自由にリフォーム・リノベーションすることはできません。もしリフォームやリノベーションをしたければ、オーナーからの許可が必要となります。
もしオーナーに無断でリフォーム・リノベーションした場合、退去時にオーナーから原状回復のための費用を請求される可能性があります。

老後は賃貸契約できないこともある

仕事を辞めて年金生活者となった場合、収入面を理由に、希望の賃貸物件の契約ができないこともあります。
年金は安定収入ですが、一般的には現役世代の収入より低くなります。オーナーとしては家賃滞納リスクを抱えることになりかねないので、年金生活者の契約審査を厳しくすることは合理的な判断と言えるでしょう。

持ち家か賃貸か?判断する基準とは?

持ち家と賃貸のどちらを選ぶべきか迷っている方は、以下の点を基準に比較検討してみましょう。

生涯コスト

先にご紹介したシンプルなシミュレーションによれば、持ち家よりも賃貸のほうが、生涯コストは高くなる可能性もあります。
持ち家のシミュレーションでは5000万円の住宅を購入したと仮定しましたが、住宅金融支援機構の調査によると、土地付き注文住宅(新築)の平均購入価格は約4456万円で、建売住宅(新築)の平均購入価格は約3605万円。両方とも平均購入価格は5000万円以下であることを考慮すると、実際の生涯コストはシミュレーションより低くなる可能性もあるでしょう。
少しでも住宅コストを抑えたい方は、賃貸より持ち家のほうが有利になるかもしれません。
※参照:住宅金融支援機構|2021年度 フラット35利用者調査

ライフスタイル

生涯コストだけで比較するのではなく、世帯のライフスタイルや価値観も基準に住宅を検討しましょう。

  • 1か所に落ち着いて生活したい
  • 庭付きの広い住宅に住みたい
  • 個人事業主なので転勤の必要がない
  • 休日にはDIYを楽しみたい
  • 子供がたくさん欲しい

上記のような状況の世帯は、賃貸より持ち家のほうが適しているでしょう。
一方で、次のような状況の世帯は、持ち家よりも賃貸のほうが適しているのではないでしょうか。

  • 色々な場所で刺激を受けながら暮らしたい
  • 引越しすることに抵抗がない
  • 生涯独身で自由な暮らしをしたい
  • 家族が全員多忙で家にいることが少ない
  • 老後は速やかに施設へ入るつもり

なお、ライフスタイルや価値観、生活状況はライフステージによって変化することも考慮しておきましょう。

収入の見通し

持ち家か賃貸かを判断する上で、将来的な収入の見通しも大事なポイントになります。
公務員の方や大企業にお勤めの方であれば、持ち家と賃貸のどちらを選んでも問題ないでしょう。将来的にも安定した収入が見込まれるため、ローンの返済や家賃の支払いに行き詰まる可能性が低いからです。
逆に、将来的な収入の見通しが不明瞭な方、収入が不安定な方は、賃貸のほうが適しているかもしれません。万が一、住宅資金が枯渇した場合でも、コンパクトな賃貸へ引っ越せるフットワークの軽さがあるからです。

住み心地

持ち家にも建売や中古物件、マンションなど様々なタイプがありますが、もし注文住宅をお考えならば、住宅に対する家族の大半の希望を叶えられます。住み心地、デザイン、場所など、あらゆる点で希望に近い住まいを実現できる点は、持ち家の大きな魅力です。
一方で賃貸マンションや賃貸戸建ての場合、初めから住宅の広さや間取り、規格などが決まっています。リフォームの範囲も制限されていることが多いため、住み心地やデザイン等の希望をすべて叶えることは難しいでしょう。

資産価値

資産価値は持ち家にしか残りません。
税務会計上、建物の資産価値はいずれゼロになりますが、これはあくまでも帳簿上の話。実際の売買においては、相応の価格が付きます。もちろん、土地の価格も付きます。自分は転居して他人へ貸し出すことも、有効な資産活用法の1つになるでしょう。
なお、住宅の資産価値を残したいならば持ち家を選ぶべきですが、資産価値にこだわりがなく、かつ相続人もいない方ならば賃貸でも構いません。

老後の生活

持ち家の場合、段差のないバリアフリーにしたり階段のない平屋住宅にしたりなど、将来の老後を考慮した設計が可能です。
一方で賃貸の場合、当初の設計・規格に住人が合わせなければならないので、足腰が弱ってくると生活しにくい場面があるかもしれません。老後でも生活しやすいサ高住という賃貸住宅がありますが、サ高住の家賃は高額なので、入居には相応の資産が必要となります。

【まとめ】生涯コスト以外の要素も加味して総合的に判断を

持ち家と賃貸、それぞれの生涯コストやメリット・デメリット、選択する際の判断基準などについてご紹介しました。

「持ち家か賃貸か」というテーマは、今後も永遠に議論され続けることでしょう。そして、議論の中心は、今後も「生涯コスト」になるでしょう。
しかしながら、持ち家と賃貸を比較する場合、生涯コストのみで比較しても結論は出ません。生涯コストを抑える予算計画・人生設計を実行すれば、持ち家のほうが安くもなり賃貸のほうが安くもなります。
生涯コストは大事な判断基準の1つですが、生涯コストだけにとらわれることなく、世帯のライフスタイルや住み心地、老後などの様々な要素も加味して総合的に判断したほうが良いでしょう。